新人ミステリー作家の登竜門とも言えるようなミステリーの小説賞。『このミステリーがすごい!』大賞。
これまでに『チーム・バチスタの栄光』の海堂尊さんや、『元彼の遺言状』の新川帆立さん、『さよならドビュッシー』の中山七里さんなど、著名な作家さんを多数輩出している、すごい小説賞です。毎年1月に大賞作品は単行本で刊行されています。
今回は2024年・第22回にて大賞を受賞した作品を紹介します。白川尚史『ファラオの密室』です。
紀元前1300年代後半、古代エジプト。死んでミイラにされた神官のセティは、心臓に欠けがあるため冥界の審判を受けることができない。欠けた心臓を取り戻すために地上に舞い戻ったが、期限は3日。
ミイラのセティは、自分が死んだ事件の捜査を進めるなかで、やがてもうひとつの大きな謎に直面する。棺に収められた先王のミイラが、密室状態であるピラミッドの玄室から消失し、外の大神殿で発見されたというのだ。この出来事は、唯一神アテン以外の信仰を禁じた先王が葬儀を否定したことを物語るのか?
タイムリミットが刻々と迫るなか、セティはエジプトを救うため、ミイラ消失事件の真相に挑む!浪漫に満ちた、空前絶後の本格ミステリー。
古代エジプトを舞台にした特殊設定ミステリ。死んだ人間がミイラとして蘇って、事件を調べるという斬新な設定で進んでいく物語です。今回はネタバレなしで感想を話したいと思います!
※これまでの『このミステリーがすごい』大賞についてはこの記事でまとめているので、気になる人はぜひ見てください!
【2024年版】『このミステリーがすごい!』大賞のおすすめ小説10選古代エジプトを舞台にした2つの謎
舞台は紀元前1300年代の古代エジプト。神官のセティが死んでしまい、冥界に向かうというところから物語は始まります。この世界では、冥界の審判を受けて、死後の世界が決まることになるのですが、セティはなぜか心臓が欠けている状態でした。
審判には心臓がしっかりした状態になっている必要がある。欠けている心臓を見つけるために、セティは3日間の猶予を受けて、現世に戻ることを許されます。
なぜセティの心臓は欠けているのか。これが1つ目の謎です。
現世に戻ったセティには、これに加えてもう1つの謎が待ち受けていました。棺に収められていたはずの先王のミイラが、密室状態のピラミッドから消失し、外の神殿で見つかったのでした。
この出来事をきっかけにエジプトは大きな混乱を招くことになるのです。
誰がどのように先王のミイラの消失を仕掛けたのか。これが2つ目の謎です。
はたしてセティはこれらの謎を明かすことができるのか?
ミイラが探偵役を務める異色のミステリー
死人であるセティはミイラの状態で蘇っています。ミイラが探偵役を務めるという作品は初めて読みました。意外にも登場人物たちがみんなその状況をすんなりと受け入れているのも面白かったです。
余談ですが、死んだ人が現世に戻って探偵役を務めるというのは、どことなく辻堂ゆめさんの『いなくなった私へ』に近いものを感じました。
【感想】驚愕のラスト!自分が認識されない理由とは?(辻堂ゆめ『いなくなった私へ』)現世と冥界という2つの世界があるからこその特殊設定ミステリとなっています。
最初の謎である、セティの心臓が欠けている理由についてですが、そもそもセティは崩落事故に巻き込まれて死んでいたことがわかります。
しかし、その混乱の中で、セティは何者かに殺害されているようだったのです。犯人は誰なのか。そもそも何のためにセティを殺したのか。
セティの死の真相は調べれば調べるほどに謎が深まっていく部分もあり、何が起きているのかは気になって仕方ありませんでした。そして、明かされる真実。特殊設定だからこその動機や犯人は驚きがありました。
ミステリーというよりはファンタジーの印象が強い
正直な感想を話してしまうと、ミステリーというよりはファンタジーという印象を受けました。セティが直面した2つの謎についても、謎解きのロジックや伏線はしっかりとあるものの、個人的にはもうひと捻り欲しいなという部分がありました。
「ミステリーが好きで好きで仕方ないです!」という人からすると、ミステリーの観点ではパンチが弱いかもしれないなと感じたのが正直なところです…。
どちらかというと、古代エジプトを舞台にしたファンタジーという印象が強いので、ファンタジーの中に謎解き要素があると考えると結構楽しめるかなと思いました。
史実や神話に基づいた部分が多々あるようです。冒頭のセティが受けていた審判は神話が元ネタのようでした。また、古代エジプトのピラミッド建設やミイラつくりなども、参考にしながら書かれているのかなと思いました。
私はまったく古代エジプトの知識がないのでわかりませんが、知っている人が読んだら面白いのかなと考えながら読み進めていました。
ミステリーが大好きです!という人よりは、SFやファンタジーが好きな方におすすめな一冊かなと個人的には思いました。ただ、ファンタジー×ミステリーとしても楽しめるので、気になる方はぜひ読んでみてほしいです!