森博嗣『封印再度』を紹介します。犀川創平と西之園萌絵の2人が事件に挑む、S&Mシリーズの5作目です。
前作のレビューはこちら。
【感想】S&Mシリーズ4作目!ミステリよりは成長物語(森博嗣『詩的私的ジャック』)50年前、日本画家・香山風采は息子・林水に家宝「天地の瓢」と「無我の匣」を残して密室の中で謎の死をとげた。不思議な言い伝えのある家宝と風采の死の秘密は、現在にいたるまで誰にも解かれていない。そして今度は、林水が死体となって発見された。2つの死と家宝の謎に人気の犀川・西之園コンビが迫る。(「BOOKデータベース」より)
今回で5作目となるシリーズですが、個人的には最も好きな話です。トリックの大胆かつ秀逸な点もそうなのですが、タイトルに隠された言葉遊びがとても上手な一冊。密室、死体消失、凶器消失、アリバイ。推理の詰め込みセットのような作品でした。
Contents
家宝の謎と密室から消えた死体
香山家に伝わる家宝「天地の瓢」と「無我の匣」。「天地の瓢」の中には鍵が入っているが、入り口が小さくて取り出せない。「無我の匣」には鍵穴があるが、「天地の瓢」から鍵を取り出せないので、開けることができない。
これら2つの家宝を残して、当主・香山風水が密室で亡くなる事件が起きていた。そして50年後。今度は風水の息子・林水が死体となって発見された。見つかったのは近くの河だったが、父が死んだ時と同じ部屋に林水の血痕が残っていた。部屋には「天地の瓢」と「無我の匣」があった。
犯人はなぜ林水を密室から連れ出したのか? そもそも何のために密室を作り上げたのか? そして、家宝が持つ意味とは何なのか?
様々な謎が交錯する、読み応えのある作品でした。
言葉遊びが秀逸!
簡単に本作の謎を紹介します。
6時には蔵の中にいなかった林水。7時になると蔵には内側から鍵がかかっていました。そして9時過ぎ。蔵を開けると、そこには血の海が広がっていた。しかし、林水の姿はない。
彼はどこに消えたのか? そして、犯行時刻とされる7時過ぎに蔵にいた人物は誰だったのか?
犯行時刻に誰が密室にいたのか?が大きな謎になっています。だからタイトルの英訳が“who inside”なんですね。
もちろん、『封印再度』という日本語のタイトルにも意味が込められています。詳細はネタバレになってしまうので省きますが、言葉通りの意味合いですね。作品のネーミングだけで楽しませてくれるのはすごいなと思いました。
トリックが大胆すぎ
この話にはいくつかのトリックがあります。密室、死体消失、凶器消失、アリバイなどなど。中には「そりゃないよ」と思えるものもあるのですが、それも含めて楽しんでください。(私としては、あの人のあの発言はさすがになしかな…)
ただ、この幾重にも重なりあった結果の事件という展開は最高でしたし、すべてがまとまった時は爽快感がありました。中でも「天地の瓢」と「無我の匣」の謎。これは結構好きな展開でした。
予想外のトリックだったのですが、納得感のある内容かつ、あまりの大胆さに感動。まさに理系ミステリの真骨頂を見たという感じです。映像で見たら圧巻だろうなと。ドラマ化もされている作品なので、映像で見たいと心から思いました。
途中、犀川&萌絵の絡みが多々あるのですが、前の作品を読んでいない人でも、本作は充分楽しめるのではないかと思います。メイントリックが秀逸過ぎるので、推理小説好きには読んで欲しい一冊でした。
次回作のレビューはこちらです。
【感想】S&Mシリーズ6作目!マジックショーで起きた密室殺人(森博嗣『幻惑の死と使途』)