全国の書店員が「今一番売りたい本」を選ぶ・本屋大賞。2021年も10作のノミネート作品が発表されました。
過去には、辻村深月『かがみの孤城』、恩田陸『夜のピクニック』、瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』など大ヒット作品が多数受賞されています。
今年はどの小説が賞を受賞するのでしょうか?
4月の発表を前に、個人的な予想をしてみたいと思います!
Contents
ノミネート作品を紹介
まずはノミネートされている10作品を紹介します。今年は、青春や人間ドラマを描いた小説が多くノミネートされていました。
伊吹有喜『犬がいた季節』
ある日、高校に迷い込んだ子犬。生徒と学校生活を送ってゆくなかで、その瞳に映ったものとは―。最後の共通一次。自分の全力をぶつけようと決心する。18の本気。鈴鹿でアイルトン・セナの激走に心通わせる二人。18の友情。阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件を通し、進路の舵を切る。18の決意。スピッツ「スカーレット」を胸に、新たな世界へ。18の出発。ノストラダムスの大予言。世界が滅亡するなら、先生はどうする?18の恋…12年間、高校で暮らした犬、コーシローが触れた18歳の想い―。昭和から平成、そして令和へ。いつの時代も変わらぬ青春のきらめきや切なさを描いた、著者最高傑作!(「BOOKデータベース」より)
1988年にハチコウに迷い込んできた子犬のコーシロー。年老いていく彼と、時代とともに移り変わる生徒と卒業生たちの物語です。
犬のコーシローが高校で過ごした12年間と、その20年後を描いた物語。6つの年代を切り取った連作短編集です。どの短編も、話の最初と最後は犬のコーシロー視点で話が語られています。
夢や目標、趣味に恋愛など、10代ならではの悩みや葛藤に正面から挑んでいく生徒たち。自分はこうした岐路に立っていた時はどうだったか? 学生時代を振り返られること間違いなしです。
気持ちがホッコリする素敵な青春小説。犬を飼ったことがなくても十分に楽しめました。
【感想】学生の淡くて切ない連作短編!犬が過ごした12年間(伊吹有喜『犬がいた季節』)青山美智子『お探し物は図書室まで』
お探し物は、本ですか?仕事ですか?人生ですか?悩める人々が立ち寄った小さな図書室。不愛想だけど聞き上手な司書さんが思いもよらない選書と可愛い付録で人生を後押しします。『木曜日にはココアを』の著者が贈る、明日への活力が満ちていくハートウォーミング小説。(「BOOKデータベース」より)
5つの短編が収録されている本作。どの話も、悩める男性もしくは女性が図書館にやってくるところからスタートします。
そこで、無愛想かつ体の大きな女性司書が、自分に合う本を選んでくれるという展開です。彼女が選ぶ本は、自分がリクエストした本だけではなく、自分に合っているだろう本も入っているのでした。
どの作品でも「わかる」と共感できる内容が多く、胸に刺さる言葉や展開が多かったです。
誰もが自分の生活、将来に対して不安や心細さを感じている。そんな人たちの背中を押してくれる作品だなと感じました。
【感想】前向きになれる短編集!悩みを抱える5人の男女の物語(青山美智子『お探し物は図書室まで』)宇佐見りん『推し、燃ゆ』
【第164回芥川賞受賞作】
「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」
朝日、読売、毎日、共同通信、週刊文春、ダ・ヴィンチ「プラチナ本」他、各紙誌激賞! !
三島由紀夫賞最年少受賞の21歳、第二作にして第164回芥川賞受賞作
高校生のあかりはアイドルの上野真幸を“推し”として生きがいにしている。推しは彼女の生活の中心でした。ある日、推しが炎上してしまうことから物語はスタートします。
勉強ができず、バイトもうまくこなせないあかり。心の落ち着ける場所が推しの存在でした。彼女曰く「推しは背骨」だったのです。推しがファンを殴ったという出来事は、あかりには直接的には何にも関係していない。しかし、自分の生活が一変してしまうほどの騒動だったのでした。
「どうしてオタクはここまで熱心にアイドルを応援できるんだろう?」と不思議でならなかったのですが、本書を読んで少しはわかるようになったと思います。(共感できるほどではないですが)
どことなく『桐島、部活辞めるってよ』を彷彿とさせられました。
【感想】“推し”は背骨。炎上した推しのファンの世界(宇佐見りん『推し、燃ゆ』)加藤シゲアキ『オルタネート』
高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が必須となった現代。東京のとある高校を舞台に、若者たちの運命が、鮮やかに加速していく。全国配信の料理コンテストで巻き起こった“悲劇”の後遺症に思い悩む蓉。母との軋轢により、“絶対真実の愛”を求め続ける「オルタネート」信奉者の凪津。高校を中退し、“亡霊の街”から逃れるように、音楽家の集うシェアハウスへと潜り込んだ尚志。恋とは、友情とは、家族とは。そして、人と“繋がる”とは何か。デジタルな世界と未分化な感情が織りなす物語の果てに、三人を待ち受ける未来とは一体―。“あの頃”の煌めき、そして新たな旅立ちを端正かつエモーショナルな筆致で紡ぐ、新時代の青春小説。(「BOOKデータベース」より)
オルタネートを用いた高校生活を通じて、描かれる淡い青春。3人の高校生を主人公にした青春群像劇です。高校生限定のマッチングアプリ、オルタネート。友達を見つけるための利用から恋人探しまで、用途は様々なアプリです。
このアプリを信奉する高校一年生の伴凪津。アプリが見つけてくれた相性ばっちりの男子生徒とカフェで話すも全く盛り上がらない。
恋愛にうまくいかない凪津の悩み。その他にも、夢や友情のために努力や苦悩をする高校生たちが描かれます。
400ページ弱の小説なのですが、読み終えるとあっという間。3人のそれぞれの物語を体験しているにつれて、一緒に高校生活を過ごした気分になれます。
【感想】高校生限定のマッチングアプリが織り成す青春物語(加藤シゲアキ『オルタネート』)伊坂幸太郎『逆ソクラテス』
逆境にもめげず簡単ではない現実に立ち向かい非日常的な出来事に巻き込まれながらもアンハッピーな展開を乗り越え僕たちは逆転する!無上の短編5編(書き下ろし3編)を収録。
子どもが主人公の5つの短編集。タイトルに「ソクラテス」とあるように、哲学的な問いがところどころで登場する作品です。大人に立ち向かおうとする子どもの勇気や行動が、清々しく描かれていました。
大人になった今だからこそ読みたい本作。自分の価値観や行動を振り返るきっかけになれます。また、他人ではなく自分がどうしたいかの重要さにも気付けます。
人から言われたからこうする。ではなく自分は何をしたいのか。相手に意見を押し付けられそうになった時は勇気を持って「僕は、そうは思わない」と言えるようなりたいですね。
【感想】先入観を捨て去れ!大人が読むべき子どもの物語(伊坂幸太郎『逆ソクラテス』)深緑野分『この本を盗む者は』
書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬。父は巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めるが、深冬は本が好きではない。ある日、御倉館から蔵書が盗まれ、深雪は残されたメッセージを目にする。“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”本の呪いが発動し、街は物語の世界に姿を変えていく。泥棒を捕まえない限り元に戻らないと知った深冬は、様々な本の世界を冒険していく。やがて彼女自身にも変化が訪れて―。(「BOOKデータベース」より)
5つの章からなる長編小説。本の町を舞台にしたファンタジー感が満載の作品です。書物の蒐集家を曽祖父に持つ、主人公の深冬。彼女は家柄のせいで本が大嫌いなのでした。
そんな深冬が育った町には不思議な現象がありました。そこでは、深冬の家から本が盗まれることで発動してしまう呪い・ブックカースが発生する不思議な町でした。ブックカースは泥棒を捕まえない限り、元には戻りません。
元の世界に戻すために、ファンタジー、ハードボイルドなど様々なジャンルの世界を、深冬は冒険することになるのでした。
【感想】本泥棒は誰?本の世界に飛ばされる呪いの正体(深緑野分『この本を盗むものは』)町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』
52ヘルツのクジラとは―他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる―。(「BOOKデータベース」より)
幼少期から虐待されてきた女性は、引っ越してきた町でボロキレを身にまとった少年と出会います。虐待を受けている彼の姿と、過去の自分を重ね合わせる女性。彼をどうにか助けたいと行動します。
そんな二人を52ヘルツのクジラに例えて表現されています。世界に一頭しかいない52ヘルツのクジラ。周波数が高すぎる彼の声は、他のクジラには届かないのでした。
2人が歩んできた環境がツラくて、読んでいて心が苦しくなってしまいました。それでも、周囲の人たちに助けてもらいながら一生懸命に前を向こうとする2人の姿に胸を打たれます。
完全なハッピーエンドとは言えないものの、苦難を乗り越えて成長していく様子がとても素敵な物語でした。
【感想】自分は一人ではない。声が届かない女性と少年の物語(町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』)山本文緒『自転しながら公転する』
東京で働いていた32歳の都は、親の看病のために実家に戻り、近所のモールで働き始めるが…。恋愛、家族の世話、そのうえ仕事もがんばるなんて、そんなの無理!誰もが心揺さぶられる、7年ぶりの傑作小説。(「BOOKデータベース」より)
楽しくない毎日を過ごしていた32歳の女性・都と、回転寿司屋で働く30歳の男性・貫一との物語。ひょんな出会いから、二人は交際を始めるのですが、何かとうまくいきません。
将来を考えられない彼氏との毎日、親の介護、人間関係が上手くいかない仕事。これらの両立に悩んでしまう都。生きているだけで様々な役割を果たさないといけない。
ツラい境遇にいることが多い都ですが、少しずつ自分だけが不幸ではないことを知っていきます。幸せに見えることも、表面的なものでしかない。最後には素敵な学びや前向きになれる言葉が数々でてきます。
【感想】幸せだけが人生じゃない!勇気をもらえる恋愛小説(山本文緒『自転しながら公転する』)伊与原新『八月の銀の雪』
不愛想で手際が悪い―。コンビニのベトナム人店員グエンが、就活連敗中の理系大学生、堀川に見せた驚きの真の姿。(『八月の銀の雪』)。子育てに自信をもてないシングルマザーが、博物館勤めの女性に聞いた深海の話。深い海の底で泳ぐ鯨に想いを馳せて…。(『海へ還る日』)。原発の下請け会社を辞め、心赴くまま一人旅をしていた辰朗は、茨城の海岸で凧揚げをする初老の男に出会う。男の父親が太平洋戦争で果たした役目とは。(『十万年の西風』)。科学の揺るぎない真実が、人知れず傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇。(「BOOKデータベース」より)
自然現象を題材に、人間ドラマを絡めて描いている5つの短編集。
表題作の「八月の銀の雪」では、就活が上手くいかない大学生が主人公。コンビニでバイトしている女性の外国人を見下していました。しかし、実は彼女は将来有望な研究者でした。そして、彼女から聞かされた“地球の内部”の話に影響を受けます。
科学的なテーマとの出会いがきっかけになって、人々が前向きになれる様子が表現されています。神秘的なストーリーやファンタジーがあるわけではありません。それでも読んでいて不思議な力で歩んでいこうとする、姿を見ることができます。
【感想】悩みを昇華してくれる短編集!自然現象がもたらす神秘(伊与原新『八月の銀の雪』)凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』
「一ヶ月後、小惑星が衝突し、地球は滅びる」学校でいじめを受ける友樹、人を殺したヤクザの信士、恋人から逃げ出した静香。そして―荒廃していく世界の中で、四人は生きる意味を、いまわのきわまでに見つけられるのか。圧巻のラストに息を呑む。滅び行く運命の中で、幸せについて問う傑作。(「BOOKデータベース」より)
2020年に『流浪の月』で本屋大賞を受賞した凪良ゆうさん。2年連続のノミネートとなりました。本作は1ヶ月後に地球が滅びてしまう世界での物語です。
世界の終末を前にして、人々はどのように生き、誰とと生活をするのか。倫理観を失った人によって荒廃していく地球。そんな中で「生きる意味」を見つけようとする4人の視点で話は進んでいきます。
人が変わっていく過程や人類が滅んでいく様子が、痛いほどわかりやすく表現されている本作。最後にはとてもキレイに話が締まります。とても美しく、そして儚い物語に感じられました。爽快ではありませんでしたが、読後の余韻は素晴らしいものでした。
【感想】地球滅亡の前に何をするのか?終末間近の人間の気持ちを描く(凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』)本屋大賞ランキングを予想
今年は、ミステリや歴史小説はなく、青春や日常、社会問題をテーマとした作品がほとんどでした。どれも読みごたえがあり、自分を前向きにさせてくれる作品ばかり。
甲乙つけがたいですが、ここからは100%主観で今年のランキングを予想してみたいと思います!
1位:町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』
2位:山本文緒『自転しながら公転する』
3位:宇佐見りん『推し、燃ゆ』
4位:凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』
5位:伊坂幸太郎『逆ソクラテス』
6位:伊吹有喜『犬がいた季節』
7位:青山美智子『お探し物は図書室まで』
8位:加藤シゲアキ『オルタネート』
9位:伊与原新『八月の銀の雪』
10位:深緑野分『この本を盗む者は』
読書好きの間では『52ヘルツのクジラたち』の評価はかなり高いように感じます。実際に読んでみても多くの人に好かれる作品だろうと思いました。
次点には『自転しながら公転する』を挙げてみました。他のノミネート作品と比べると長めの作品ですが、成長物語として学びや人生を考えさせてくれる素晴らしい作品でした。
個人的には『お探し物は図書室まで』が一番好きだったのですが、他の作品の題材が強すぎるので、大賞のインパクトは弱いのかなと感じてしまいました…。
発表まであと約1ヶ月。どの作品が受賞するのかを楽しみにしていたいと思います!