独特の空気感で描かれる人間ドラマ。そして、その中に張られている伏線がとても巧妙。読んでいて爽快感を味わえるミステリが多い辻堂ゆめさん。
第13回『このミステリーがすごい!』大賞で優秀賞を受賞しデビューした作家です。
どんでん返しや伏線回収ものには目がない私(知らん)ですが、辻堂さんの作品はどれも一級品。とにかく面白いです。
もっとたくさんの方に辻堂さんの魅力を知ってほしいので、今回は特に面白かった7つの小説を紹介します。私個人の独断と偏見でランキングにしました。完全に好みの問題なのでご了承ください。笑
Contents
7位『あなたのいない記憶』
約十年ぶりに再会した優希と淳之介。旧交を温める二人の会話は、二人の憧れの人物「タケシ」の話になった途端、大きく食い違い始める。タケシをバレーボール選手と信じる淳之介と、絵本の登場人物だという優希。記憶に自信が持てなくなり、戸惑う二人は心理学者の晴川を訪ねるが、どちらの記憶も「虚偽記憶」―他人の“明確な意図で”書き換えられた嘘の記憶だと告げられる。記憶をめぐる、恋愛ミステリー。(「BOOK」データベースより)
記憶を題材にしたミステリ。幼少期を同じように過ごした二人は「タケシ」という人物に食い違う記憶を持っていました。
誰が何のために虚偽記憶を植え付けたのか?
作品冒頭から小さな謎が散りばめられており、最後にはすべてが解決する。トリックもさることながら、どんでん返しの先にあった人間ドラマが美しかったです…。精神的な面で、読んでて少ししんどくなる、心苦しい作品でした。
【感想】虚偽記憶が植え付けられた理由は?新しい恋愛ミステリ(辻堂ゆめ『あなたのいない記憶』)6位『今、死ぬ夢を見ましたか』
井瀬は電車の中で、駅のホームから何者かに突き落とされて、親友の五味淵と共に死ぬ夢を見た。隣に乗り合わせた女子高生・紗世は夢の内容を当て、さらに自分も同じように電車に轢かれた夢を見たことがあると告白する。電車で見た夢は必ず自分の身に起こると言う紗世の言葉通り、夢は次々と現実になり―。紗世の制止を振り切り、井瀬は自分たちの死を回避すべく奔走する!(「BOOK」データベースより)
電車で見た予知夢を題材にしたミステリ作品。本書の最大の見どころはラストのどんでん返し。気付けなかったことがとても悔しくなりました。「まさかそんなところに伏線が張ってあったとは…」という感じです。
予知夢というSF設定を思う存分に使ったトリックで、種明かしの瞬間は最高でしたね。爽快に騙されました。メイントリックと後半の心苦しさは素晴らしかったです。ただ、欲を言うともうひと捻りあったらな…という作品でした。
でも、メインのどんでん返しだけでも満足できるはずです!
【感想】衝撃のどんでん返し!自分が死ぬ将来は変えられるのか?(辻堂ゆめ『今、死ぬ夢を見ましたか』)5位『答えは市役所3階に~2020心の相談室~』
コロナ禍がもたらした、幾つもの「こんなはずじゃなかった」。市役所に開設された「2020こころの相談室」に持ち込まれるのは、切実な悩みと誰かに気づいてもらいたい想い、そして、誰にも知られたくない秘密。あなたなりの答えを見つけられるよう、二人のカウンセラーが推理します。最注目の気鋭がストレスフルな現代に贈る、あたたかなミステリー。
2020年を舞台に描かれる小説。新型コロナウイルスに人生を狂わされた人たち。「こんなはずじゃなかった」を経験した彼らは市役所に設けられた心の相談室にやってきます。カウンセラーのもとにやってきて、苦しさや悩みを吐き出していく5人の相談者たちを描いた連作短編集です。
相談者たちがどのように前を向いていけるのかはもちろんですが、ちょっとした謎がどの短編にも用意されているので、先が気になって楽しく読めていきます。
しかし、それだけでは終わりません。それぞれの短編の最後には、先ほどのちょっとした謎を遥かに凌ぐ形で謎の提示と解決が起こります。「相談者の裏側はそんなことになっていたのか…」というちょっとしたどんでん返しがあるのが本作の一番の目玉でしょう。
落ち込んでいる時に前を向ける、心が温まることは間違いなし。それに加えてミステリとしてもかなり面白い作品です。
4位『いなくなった私へ』
人気絶頂のシンガーソングライター・上条梨乃はある朝、渋谷のゴミ捨て場で目を覚ます。昨夜からの記憶がなく、素顔をさらしているのに誰からも上条梨乃と認識されない状況に戸惑う。さらに街頭ビジョンには、上条梨乃が自殺したというニュースが流れており…。梨乃は自分を上条梨乃と認識できる青年・優斗らの力を借り、自らの死について調べだす。第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作!(「BOOK」データベースより)
辻堂ゆめさんのデビュー作。最初に手に取った作品でしたが、とてつもなく面白かったです。
気付いたら誰も自分を別人として認識する世界にいた梨乃。しかも、現実の自分は既に死んでいるらしい。このわけのわからない設定で繰り広げられるストーリーが最高でした!
- 梨乃はなぜ死んだのか?
- 死んだはずなのに生きているという今はどんな状況なのか?
- 自分を梨乃だと認識できる人間もいるのはなぜか?
この謎は最後にはキレイに解決されます。SF設定のミステリなので、非現実的な面はあるものの、設定を駆使したネタバラシに度肝を抜かれました。
不思議な世界の謎が解けていく本作。少しづつ霧が晴れていき、最後には爽快な気分を味わえますよ。
【感想】驚愕のラスト!自分が認識されない理由とは?(辻堂ゆめ『いなくなった私へ』)ちなみに、この時の『このミステリーがすごい!』大賞にて、『女王はかえらない』で大賞を受賞したのが降田天さんです。降田天さんも伏線回収が美しいので、ミステリ好きにはおすすめの作家さんです!
【厳選】降田天のおすすめ小説5選!伏線回収が美しすぎるミステリ作家3位『トリカゴ』
蒲田署強行犯係の森垣里穂子は、殺人未遂事件の捜査中に無戸籍者が隠れ住む生活共同体を発見する。その共同体“ユートピア”のリーダーはリョウ、その妹のハナが事件の容疑者となっていた。彼らの置かれた状況を知った里穂子は、捜査が“ユートピア”を壊すのではないかと葛藤を抱くようになり……『十の輪をくぐる』の著者渾身の書き下ろし長編ミステリ。
殺人事件未遂で捕まった女性。彼女には戸籍がなかった。そして、この事件をきっかけに24年前の幼児監禁事件(通称:鳥籠事件)が進展する。
終盤になるつれて明らかになってくる謎の数々。そこには胸を締め付けられる想像を絶する真相がありました。
心が苦しくなるという表現だけでは書き足りない。今、当たり前のように生活できていることに喜びを感じられる作品でした。
難しいテーマに対して、ミステリとしても完成度高く描き切っており、伏線回収はとても素晴らしかったです。
【感想】無戸籍者を題材にした社会派ミステリ(辻堂ゆめ『トリカゴ』)2位『コーイチは、高く飛んだ』
全日本種目別選手権の鉄棒で優勝した体操界期待の新星・結城幸市は、コーチを務める両親や応援してくれる幼馴染らに囲まれ、充実した日々を送っていた。だがある日、妹の似奈が階段から転落し、意識不明の重体になったときから、すべての歯車が狂い出す―。立て続けに重なる不幸に心が折れかけながらも、幸市は大会に向けて猛練習に励む。瑞々しい青春スポーツミステリー。(「BOOK」データベースより)
過去と現在の2つの視点で話が進む本作。過去では幸市の周囲で起きた不幸な事件を扱っています。父の冤罪や妹の転落事故など、これでもかというほどに悲しい出来事が起こります。
過去と現在の視点を交互に語られて進む本作ですが、どんでん返しが非情でとても切ない。
驚き要素は満載だし、読んで想像してイメージが一瞬にして崩れ去りました。それほどまでにインパクトのあるラストだったのですが、それ以上に見えていなかった真実が苦しすぎました…。
あまり多くを語るとネタバレになりかねないので、ミステリ好きはまず読んでください。言いたいことがわかると思います。笑
【感想】最後のネタバラシは一級品!切なさでいっぱいになる読後感(辻堂ゆめ『コーイチは、高く飛んだ』)1位『あの日の交換日記』
「クラスの大杉寧々香を殺します」 私は先生との交換日記にこう書いてみた。その時の先生の反応は? 全7話の連作短編。 いろいろな「ふたり」がやりとりする交換日記には、謎が――。(作者のブログより)
1位は2020年4月に刊行された本作。2020年に読んだ小説の中で最も面白かったです!
本作には7つの短編が収録されています。そして、全話にどんでん返しが用意してあって、どれも最後にアッと驚かされます。もちろん、短編の1つ1つだけでも十分に楽しめるのですが、それだけではありません。最後の物語ですべての話が一つに繋がります。
「今まで何を読まされていたんだ…」となってしまいました。
自分の想像とは全く別の物語が進行していたからです。あまり多くを語ってしまうとネタバレになるのでこの辺で。笑
本作はミステリが好きという人はもちろんですが、ヒューマンドラマや心温まる話が好きな人にもハマる作品です。気になった人は是非、自分の目で驚きの世界を味わってください。
【感想】伏線回収は一級品!心温まる7つの短編(辻堂ゆめ『あの日の交換日記』)